第169章 人の弱みに付け込む

波風ひとつ立たない野口颯汰が、ハンドルを握る手に力を込めた。ぎゅっ、ぎゅっと、何度も。

頬の筋肉が強張り、声まで低く沈む。

「……そうか?」

南坂海乃は、その赤いほくろを見つめたまま、目の奥を読ませない。

「あー……違うかも。私、勘違いしてた」

投げやりな言い方。わざとだ。反応を確かめたいだけ。

あの夜の記憶はまだ輪郭が曖昧だけれど、少しずつ――戻ってきている。

野口凛の探り。先輩がこれまで、はっきり言い切らずに話を逸らしてきた態度。

それらを繋げれば、答えはほぼひとつだ。

あのときの男は、おそらく野口颯汰。

なのに、そう確信した瞬間、南坂海乃は逆に肩の力が抜けた。胸の奥...

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